三井環法律事務所
“悪徳検事”までの経緯
裁判
待ちに待った初公判
大阪拘置所から保釈にならない間に、第一回公判が7月30日午後1時半と決定した。大阪地方裁判所で一番大きな201号法廷。まず、初公判を前に異議があったの、同じくして逮捕された渡真利と裁判長らが同じ構成なのだ。この時点で渡真利には検察側から、懲役5ヶ月が求刑され、過去の犯歴などから実刑判決が実質的に決まったも同然だった。贈収賄事件で、贈賄の渡真利は起訴事実を認め、実刑判決が下ろうとしていた。一方、収賄側、私は無罪を主張しようとしていた。贈賄側に有罪判決を下した裁判長が、無罪を主張する収賄側に予断や偏見がない公正な判決を下すことができるのか。私も11人で構成された弁護団も意見は同じだった。しかし、裁判所は認めることなく、初公判の期日を迎えた。
うだるような暑さの中、昼前に大阪拘置所からバスに乗せられて、大阪地裁に向かった。私は刑務官に囲まれ、手錠姿で法廷に入った。傍聴席には、久しぶりに見る妻や子供の顔があり、ほっとした。私をずっと取材してくれていた週刊誌の記者や朝日新聞の落合氏の顔も目にとめた。
私の弁護団が11人。検察側も、なんと9人の検事が顔を並べた。
私の弁護人たちは、私の逮捕を調査活動費問題を隠すためのもので、逮捕自体が無効である、公訴棄却を申し立てた。
そして、私の番がきた。待ちに待った瞬間だった。
「どちらが正義でどちらが犯罪者か、卑怯な人間か、よく考えてほしい」
私は、検察側を睨みつけて言った。途中、裁判長から正面を向くように言われたが、従うつもりはなかった。
「なぜ、私が被告人席にいるのか。ここに座るべきは検事総長だ」
思いっきり、力を込めて言い放った。
長い、長い裁判の先制攻撃だった。
検察側の冒頭陳述。
それは綿密な捜査、基づいて集めた証拠と供述を吟味して、これから検事が証明しようとする、犯罪行為を公に知らせるものとなる。
検察官の冒頭陳述とは、野球で言うなら、ピッチャーの投じる第一球だ。
「おまえ、いろいろと弁解しても、こんな犯罪をしていたんだ」
と何も被告に弁解させない、説得力あるものを投げ込むのだ。
だが、検察の冒頭陳述は渡真利の虚偽の物語をベースにした内容に終始。
裁判の結果報道
●NEWSことば:
調査活動費 具体的な支出内容は公表せず
事件の調査、情報の収集などの調査活動にかかる経費。「捜査活動費」に比べ、情報収集なども含む広い範囲を対象に支出される。
元大阪高検公安部長の三井環被告が法務省の内部資料として公表した「調活マニュアル」によると、使途は「協力者謝金」「調査実費」「情報交換会経費」の三つ。
協力者謝金は情報提供者に対する報酬、謝金で、情報の価値や情報入手に要した実費などを考慮して支払われる。調査実費は、緊急を要する特別な情報誌の購入代金や極秘裏に進められるレンタカーの借り上げ代金など検察庁職員が調査活動を行う際にかかった実費。情報交換会経費は、警察関係機関などの職員を含む情報提供者と検察庁職員の間での情報交換会開催に要する費用とされる。
調査活動にかかわるとして具体的な支出内容は公表されていない。法務省は01年9月、支出手続きなどの統一化や管理強化の通達を出し、(1)各検察庁の長のみならず次席検事らもチェックに加わる(2)支出の決裁状況や具体的な使途を記載した書類などの作成・保存--を義務付けた。
●毎日新聞 2004年9月29日 大阪朝刊
元大阪高検公安部長収賄事件:
三井被告に懲役3年求刑--大阪地検「調活費」触れず
捜査情報を漏らす見返りに暴力団関係者から接待を受けたなどとして、収賄罪などに問われた元大阪高検公安部長、三井環被告(60)の論告求刑公判が28日、大阪地裁(宮崎英一裁判長)で開かれ、検察側は懲役3年、追徴金約28万円を求刑した。論告で検察側は「検事の職責を売った前代未聞の極めて悪質な犯行」と指摘した。10月27日に弁護側最終弁論が行われ、結審する。(3面にことば「調査活動費」、29面に論告要旨、31面に関連記事)
三井被告は現職だった02年4月22日、検察幹部による「調査活動費」の不正流用疑惑を実名告発する直前、大阪地検特捜部に逮捕され、「口封じのための不当逮捕」と無罪主張している。しかし、検察側は論告で調活費問題には一切触れず、「被告は暴力団関係者に執ように接待を要求するなど、自己の欲望を満たすため検事の地位を悪用した」と厳しく批判した。
また論告は、公訴権乱用との弁護側主張に対し、「悪質な犯罪の嫌疑が十分明らかである以上、起訴するのは当然。起訴しなければ、被告が大阪高検公安部長であるので起訴されなかったと国民に受け止められ、不公平感を助長する」と反論。さらに、「反省の情も皆無で、刑事司法に対する国民の信頼を失墜させた刑事責任は極めて重大」と三井被告を指弾した。
三井被告が収賄罪で起訴された贈収賄事件では、贈賄罪に問われた元組員が懲役5月の大阪地裁判決(02年9月)を受けて確定、既に刑期を終えている。その際の判決は「元組員が三井被告の検事としての権限を利用しようと取り入った」と認定している。
この日の公判後、会見した三井被告の弁護団は「調活費問題に触れることすらできなかった空疎な論告」と批判した。【一色昭宏】
●元大阪高検公安部長収賄事件:
「職責売ったも同然」かつての同僚を指弾--論告求刑
◇三井被告「悪文だ」
大阪地検は、かつての同僚に懲役3年を求刑した。大阪地裁で28日開かれた元大阪高検公安部長、三井環被告(60)の論告求刑公判で、検察側は「検察官の職責を売ったと言っても過言ではない」などと、収賄罪などで起訴した三井被告に対し、批判の言葉を容赦なく浴びせた。「調活費問題の口封じ」と検察批判を続ける三井被告は、ほおを紅潮させながら、論告を朗読する検察官をにらみ続けた。【堀川剛護】
ベージュのシャツにグレーのズボン姿の三井被告。弁護人席の前に用意された被告人席に、検察官と向き合って座った。論告が朗読される間、ほおづえをついたり、机の上で両手を組んだりしながら検察官を見据え、手元に置いた論告要旨には目もくれることがなかった。
検察側は出廷した3人が順次、A465枚の論告要旨を約2時間で朗読。「検察官が職務執行に当たって清廉でなければならないことは当然。暴力団関係者からわいろを受け取るなど前代未聞。予想すらできなかった」「母親の葬儀に元組員から10万円の香典を受けるなど癒着は甚だしい」「逮捕などされないという特権意識を持っていた」--。声を張り上げた大島忠郁・大阪地検公判部長に対し、三井被告は鋭い視線を送った。
公判後、三井被告は報道陣に対し「悪文だ。元組員の供述のみに基づいた論告で、何の根拠もない」と吐き捨てるように話して法廷を後にした。また、弁護団は記者会見。石松竹雄団長は「悪徳検事のイメージを作ろうとした論告。調活費問題の口封じだ、との我々の主張にまったく触れていない。触れれば、起訴のあり方に問題があったことを認めることになるからだろう」と述べ、「三井被告一人を悪者にしているが、本当に襟を正すべきは検察庁だ」と批判した。
◇仙台高検の調活費訴訟、高裁「不正流用の疑い」
調活費について法務省は「適正に支出されてきた」と主張する一方、検察庁全体の調活費(補正後の予算ベース)は98年度の5億5300万円から減り、02年度は7900万円、今年度当初予算は8400万円で98年度の7分の1に激減。大阪高・地検でも同じ傾向で、毎日新聞の情報公開請求で開示された資料によると、同高検の調活費支出は98年度の約1280万円が03年度には約97万円に。同地検も約1887万円から約444万円に減った。
国会では「調活費が減ったのは裏金として使うのをやめたからではないか」との追及があったが同省は否定。取材にも「減額は節約と合理化を心掛けた結果。コンピューターネットワークの利用充実のため予算をシフトした」と説明する。ある検察幹部は「事件は現職高検幹部と暴力団の癒着という大変な問題。調活費と絡めること自体、問題のすり替え」と話す。
仙台市民オンブズマンは調活費支出項目の開示を求め、仙台高・地検を提訴。この日、98年度の調活費文書を一部不開示とした処分取り消しを同高検に求めた訴訟の仙台高裁判決があり、請求棄却の1審判決を支持、原告側の控訴を棄却した。
しかし、小野貞夫裁判長は83~93年の領収書偽造を認め、「不正に流用されたのではないかとの強い疑いが生じる」と指摘。原告側は上告するが、「不正流用の事実が明らかになった」と評価した。三井被告は「調活費は100%裏金として使われていた」と証言したが、判決は「証言だけでは不正流用を認められない」と判断した。【木村哲人】
◇調活費疑惑の口封じ--弁護団は無罪主張
02年7月の初公判で公訴棄却の申立書を読み上げた三井被告。検察官をにらみながら「どうして私が被告人席にいるのか。ここにいるべきは検察首脳だ」と検事総長らを名指しし、その後も「逮捕は調活費疑惑の口封じ」と無罪主張を続けた。弁護団は、刑事弁護専門のベテラン弁護士ら13人。検察側も大阪地検特捜部副部長や公判部長らが立ち会い、対決姿勢を鮮明にした。
昨年9月の公判。高松地検、大阪高検で上司だった元大阪高検検事長の荒川洋二弁護士が弁護側証人として出廷。三井被告は「調活費が裏金に回っているのは、検察庁では公知の事実でしょう」と迫ったが、荒川弁護士が「裏帳簿や架空領収書を決裁したことはない」と否定するなど、調活費を巡り法廷は白熱した。
三井被告は保釈後の03年5月、「告発! 検察『裏ガネ作り』」(光文社)を出版。調活費疑惑を告発しようとした経緯や今回の事件に対する意見をまとめ、社会にも積極的にアピールした。【堀川剛護】
毎日新聞 2004年9月29日 大阪朝刊
